遠足

2006-05-09

[]ふきだし博士とクロワク魔人

 カテゴリ名、書評から小説にしました。やっぱりこの方がわかりやすい。気がする。

 

 甲村彩乃の幻のデビュー作、堂々の登場! だそうです。

 甲村彩乃といえば、実在の事件・人物をモチーフにした(ことがかなりあからさまな)作品で知られる小説家。私はどうもそういうのを敬遠してしまうので今までろくに読んだことがなかったのですが、本屋でこの本を見た時におやと思ったのはその帯の宣伝文でした。

カーブ児童文学賞最終選考!

 それはすごいことなのかしらと思わず手に取ったら、作者は甲村彩乃。この人が児童文学? と思ったら、デビュー前に応募して賞は取れなかった作品を加筆修正して復刻、というものらしい。多分甲村先生のものなら何でも読むとか、過去に書いた微笑ましい作品を読んでみたいとか、そういうファンをターゲットにしているのでしょう。私は購買層じゃないと思いますが、

少年漫画雑誌、週刊イーグルの中で生きる登場人物たち。

コマの裏では敵も味方も和気藹々?

けれどそこに全ページを支配しようとたくらむふきだし博士が現れた!

 ゲーッ、面白そう(嫌な趣味)

 児童文学なのに舞台が漫画雑誌の中なのかとか、デビュー作?が楽屋ネタなのかとか、帯見ただけで色々妙な気分になりましたが、あまり迷わず買いました。ファンでもないのに。でも面白かったです! 相当昔に書いたものらしく、後書きで修正に苦労したとか照れてる甲村先生がちょっとかわいかったです!

 

 主人公は漫画内では脇役、というかエキストラみたいな人。外見に特徴がないのでほとんど全部の漫画に出演して通行人をやっている。コマ裏(楽屋のことらしい)では主役陣とのふれあいとかがある。

 エキストラである主人公はどこの漫画世界にも行けるが、通常の登場人物たちはその世界から外に出られないって設定が伏線としてもきっちり生きてて後半燃えます。

 名前がついているかいないかが登場人物とエキストラの違いらしく、主人公の名前はコウというが(まさか甲村先生、自分の名前から…)、コマ裏でしかその名前を呼ばれない。

「コウ」

 呼びかける鞘の声が、すこし湿っている。

「この漫画終わったらさ。私も後ろの方で歩く人になりたい。他の漫画の景色、色々見てみたい」

 難しい。彼女が「後ろの方で歩く人」になるのは。

 コウと違って、鞘はとても目を引く容姿だから。

 不人気漫画「ボムの街」のヒロイン鞘と恋に落ちてしまう主人公。このヒロインの表と裏の微妙な違いがいい。あとコマの裏での魔人とのバトルでばたばたやってる時、コマの表でそしらぬ顔で熱血演技をする「消音レーサー」の主人公がいい。

 

 それにしてもこういう内容で、嫌な鳥肌を立てるようなこともなく最後まで読んで「面白かった」と断言できるのはすごい。今まで敬遠してたけど、なんか他の作品も私が苦手な物は含まれていないような気がしてきた。読んでみようかなー。

2006-03-29

[]閻魔香炉

 三好栄介はもう7年も前に亡くなっているわけですが、実は私がそれを知ったのは半年前でした。何気なくショックだった。その時点で未読だったのは多分5冊、今回久しぶりに読んだので多分あと4冊になりました。寂しくなるなあ。以下ネタバレ。

 

 この作品も例によって主人公が途中で姿をくらまします。「三好は主人公を行方不明にしないと話を進められないのか?」とよく言われたあれ。初期・中期作品ではなんとか行方不明にしないですまそうという苦心の跡が見られたり、行方不明になる時もそれなりに必然性があったりしたけど、後期は完全に開き直っちゃってるあれ。好みの分かれるところだと思いますが、私は後期の方が好きです。閻魔香炉は完全に後期型なので嬉しい。

「湯津子さん、僕は」

「言い訳なんて聞きたくありません!」

 湯津子は八一に背を向け、テーブルについた手に力をこめた。

「どんな理由があってもとても許せそうにない。だったら聞いても無駄でしょう?」

「…………」

「私は間違っていますか?」

 返事はない。湯津子は室内の沈黙にふと違和感を感じて振り返った。八一の姿は消えていた。

 湯津子は眉を寄せ、部屋の中を見回した。ドアにも窓にも鍵がかかっている。完全な密室だった。

 そしてそこから100ページ出てこない主人公。私が後期作品の方が好きなのは、主人公が出てない時の方が面白いからでもあるんですが、例によって今回も主人公がいなくなったとたんに生き生きしてくる周囲の人々。中でも正木さん(香炉の前の持ち主)の、香炉を手放す時のエピソードは泣いた。そういえばああいういい話が出てくるとたいてい本筋と何の関係もないエピソードですが、そういう執筆ポリシーでもあるのかしら。

 主人公が戻ってきてからは……まあ、けっこうよかった……と思う。でもやっぱり私はこの人の作品では、主人公が行方不明時の鬼のいぬ間感がすごく好きです。残りの4冊のうち2冊はわりと新しいはずなので読むの楽しみ。でも未読がなくなるのはどうもなー。