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夢学

2006-05-11

[]博士と僕


ジャンルは多分SF。作者は横柳とか言う人で、全然聞かないなあと思ってネット調べたら二流だのB級だのいう言葉乱発されてて笑えた。でも全部読んでみるとそんなにこき下ろされているわけでもなく、割と愛されてるっぽい。

というか、今回古本屋で暇つぶしに買った「博士と僕」も悪いというほどではなかったし。ちょうど的確な意見があったので引用。

「横柳新雄の書く話はずば抜けているわけではないが、期待しないで読むと意外と面白い」

一冊しか読んでないで言うのもなんだけど、まさにそんな人だと思う。

そして内容は全編の八割くらいが博士と、博士に作られたアンドロイドである「僕」のメールのやりとりという、これだけ見ると壮絶に詰まらなさそうな小説。

「僕」は違和感なく人間社会に紛れ込んでいて(というより、アンドロイドやらロボットやらが認知されてる)、日記のようなものを毎週送り、博士もそれに返事をする、と言った内容なのですが、「僕」も告白されたり恋したりと忙しい…て、そういえばこれは青春小説と分類することもできるんですね。

「僕」はどこかで働いているらしく、日々仕事は完璧にこなしているのに時々無意味に怒られて「理不尽だ」と書いてあるところなんかは、凄く微笑ましい。人間じゃないのに人間臭いというのが素敵なのかしら。

ちなみに博士の方は主に「僕」が書いてきたことへの返信が主で、ほとんどこの人についての情報は得られず、なんというかカウンセラーのような感じがします。こうするといいよと示したり、それは自分で判断しなければいけないと突き放したり。唯一博士っぽいところは巻のちょうど真ん中らへんにある機械用語満載な部分くらい。そこは「僕」のパーツのいくつかが老朽化しているということで、対処を求めた時の返事なのですが。なんでも自分でやる子ね…。

あと反ロボット結社などがあり、それに狙われたりもしているのですが、そのことだけは何故か微塵もメールに書こうとしない姿勢にも惚れます。


恋愛辺りの「僕」のうじうじぶりは日本人じゃないと書けなさそうなねちっこさがあっていい感じでした。偏見かもしれませんが、米人とかその辺はスパっとしてそうだし。

でも「僕」が恋するとは思わなかったなー。作中、明言はされないんですが、明らかにその恋した女性の描写が妙に多い。というか、文面からして恥ずかしくて抜粋する気にもなれないほど青春満載。ポエムもどきみたいなのまで入ってたし。あれ、本当にポエムのつもりで書いたのなら横柳先生はポエマーにはなれないと思う。


あとはあれだ、人間と機械の壁にぶちあたって「僕」が思わずメールの中で書いた「博士の子供に、なりたいです」に対する「お前は既に私の子供じゃないか」はありがちといえばありがちなのに泣きかけた。王道に弱いんだ。

2006-04-06

[]ふるさとはダムの下


「ふるさとはダムの下」を読みました。これ、長いことリアルにあった悲しい話かと思っていたんですが、アマゾンのレビュー読む限り予想とは違う感じだったんで興味を持って手を出してみたのですが、中々良かったです。

まず最初に説明しておくのは淡々と事実を描く「さよなら僕の故郷…」的な話ではなく、能力バトルものであるということ。


ストーリー概要。

主人公が仕事帰りにラジオを垂れ流していると、いきなりザーっという音に変わって妙な声が聞こえてきます。単語単語でその声を主人公はよく聞き取れなかったのですが、それから毎日同じ時間にその現象が起こるようになって、その声の内容を理解した主人公は戦慄を覚えます。

タイトルにあるとおり主人公の故郷は沈んだ村なのですが、何故かそこから去っていった人が次々と狙われているというのです。

そして何故か沈んだ村から形見代わりに持ち出してきたもの一つ一つに神が宿っていて、それに守られつつ反撃の機会を伺う…というライトノベルっぽい感じです。


見所はといいますと、あまり沈んだ村に愛着を持てず、ラジオからの声にも懐疑的だった主人公が故郷のことを知り、自分の先祖との縁を知るにつれて決意を固めていく過程でしょうか。

主人公が形見代わりに持ち出したものは村のものではなく祖父の懐中時計なのですが、それに宿った神に祖父と村との思い出、村が沈むまでの経過を聞いていくうちに幻想となった村を誇りに思う辺りはしんみりしました。

ただ不満があるとすれば、沈んだ村の人が狙われる理由が完全には明かされなかったことでしょうか。作中でそれらしき匂いのするキーワードはちらほら出たのですが、完全に説明はされなかった。どうもネットで評判を見るに、まだ続編があってそちらで完全に明かされるはずが、なんか内輪で揉めて出なくなったとのこと。残念です。ジョジョのスタンドのような能力を生かした頭脳戦は中々面白かったのに。

…あれ、そういえば物に神が宿るようになった理由も特に触れられてなかった気がする。


でも一応これ単品で読んでもちゃんと完成していたのでまぁいいかな。懐中時計の神と主人公のやり取りは後半なんか息がぴったりで、アメリカの相棒映画のようでした。

最後、ダムの上に立って水底を見つめて終わるのは読んでて切なくなった。

2006-03-31

[]海に還る(中)


作者の大木光春が失踪前に書いた、最新作にして最後の作品かもしれない、と言われ続けている「海に還る(中)」を、読んだ。完結を待とうと思っていたのですがこの最新作が発刊されてより五年。正直待ちきれなくなった、というのが正しいです。

以下ネタバレ。

ちなみに上巻は海から打ち上げられた人魚の死体を巡っての騒動、という感じでしたが、次の中巻では少し話が動き始める感じです。

主人公の安田が「人魚の置手紙を持っている」と言う怪しい男とあってからは安田も物語の中心に居て、主人公の面目躍如といったところでしょうか。上巻は後半ほとんど置いてけぼりだったし。

ヒロインが研究主任の娘、という設定なお陰で人魚の死体に近づけたのはよかったですが、体から出る腐臭を嗅いで意識がおかしくなってきている辺り、ホラーな展開でもやりたかったんでしょうか。体の異常描写が怖すぎる。というか、あのまま行くと下巻では確実に人間以外の何かになる。

下巻は出たとしても人間は海に住めるのではないか、的な展開になりそうな気がします。前作の「日本浮上」とか「保釈の後」を読む限りでは。

あと結局解読できなかった人魚の置手紙の内容は実に気になります。